こころ動く その10

こころ動く

 

ひとつ武器を手に入れた。

一眼レフカメラだ。

「行く前に練習しておかないとだな」

16ギガのSDカードを近くの電気屋で買い、差し込んで撮ってみた。

スマホよりもキレイだ。

何よりも家に置いてあったコンデジよりキレイだった。

これだけで満足だった。

モードは常にオートモードだった。

他のモードは何が何だか意味がわからなかった。

いずれは勉強して使いこなせるようになろう。

とりあえずいっぱい撮ろう。

メモリーのことをよく知らなかった僕はJPEG設定で撮っていた。

すごい枚数が撮れた。

そして気に入らない写真は消せる。

なんて便利なんだ。

気に入ってしまった。

仕事から帰ってくるとずっと手にしていて撮っては消しての繰り返し。

外が暗いから上手く撮れなくても何回も撮る。

「今は質より量で撮りまくるしかない」

誰が決めたかも分からないルールを自分に言い聞かせていた。

これが趣味ってやつか。

今までいくつか趣味を持っていたが久しぶりにこんな気持ちになった。

多分海外を撮るのは最初で最後だから嫌と言うほど撮ろう。

こころに誓った。

年末にさしかかり世間は慌ただしかった。

冬休みも近づいてきた。

僕は寒い中でも素手でカメラを持ち外を歩き写真を撮っていた。

撮った写真を帰ってから確認すると思うことがある。

今まで何気なく通り過ぎてきた景色がひとつひとつ確認できる。

その時はキレイだと思っていてもすぐに忘れてしまう。

人間だから仕方がない。

「今のこの景色は一生忘れないよ」

忘れます。

人間だもの。

しばらくすればあれ?何だったっけな?

ってなる。

絶対そうだよ。

カメラという物がフィルムだったらこんなふうになってないだろうな。

デジタルの時代に感謝したい。

こういう時代になるとフィルムカメラで作品を作っている人たちをすごく尊敬できる。

今の僕には出来ないな。

多分怖くてシャッター押せないよ。

だって写真が出来上がってきてからじゃないとどうなっているのか分からないんでしょ?

ダメだよ。

写ルンですじゃないんだから。

もうそろそろクリスマスだな。

何か忘れている気がするな。

何だったっけ?

大事なことだっけな?

今は思い出せないな。

本当に思い出せないな。

こんな人間だからかな。

そのうち「あっ!」って言って思い出すんだろうな。

だいたいその時は遅いんだけどね。

つづく。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました