始まるかも その9

 

家での冷遇を受けたあと僕は大きいバッグを背負って外に出た。

外は寒い。

ここは群馬県前橋市。

赤城山から流れてくる風が強く、公表されている気温より体感温度は寒い。

歩いて45分くらいの所に駅がありそこから成田空港を目指す。

「バックパック重いな」

でも全然気にならない。

見た目はバックパッカー。

バッグが大きければ大きいほどカッコいいと思っていた。

電車の窓に映る僕。

カッコいい。

横を向いたり立ってみたり上を向いたりアングルを変えて確認する。

カッコいい。

まわりの乗客の目なんか気にしない。

高崎駅に着く。

とりあえず東京まで行くのに高崎線で行こう。

あんまりお金ないし。

上野まで約2時間。

長い。

しかし自分だけのバックパッカーファッションショーが始まる。

ちょっと上を向いたり帽子をかぶったり口を開けたりしてみる。

カッコいい。

在来線である高崎線にはそこまで多くの人はいない。

細かく話すと大宮や埼玉新都心あたりから急激に人が多くなる。

そして僕の存在がジャマになってくる。

理由はバックパック。

みんなが見てきた。

「ジャマだよ」

そんな声が今にも聞こえてきそうだ。

しかし当の本人は舞い上がっていてそんな事はお構いなし。

「他の人に迷惑をかけないようにしなさい」

むかしから母によく言われていた。

そんな事は忘れていた。

だって舞い上がっているから。

窓に映る自分がカッコ良く見えていてまるで映画の1シーンを見ているようだった。

赤羽に着いた時には電車内はギュウギュウだった。

たまにテレビで見る東京都内の通勤シーンの中に僕がいた。

何なんだこれは。

僕が住んでいる同じ日本なのだろうか。

工場で働くのもツライが都心で働くのもツライな。

というよりは働く以前の話ではないか?

会社に行くまでの話じゃん。

会社にたどり着くまでこんな思いをしなくてはいけないのか。

しかし考えてみると冬休みなんだよな。

僕も仕事は好きだがみんなも仕事好きなんだな。

「お疲れ様です」

僕はそうつぶやき終点上野で降りる。

日本人は大変だ。

自分だけが大変なんて思っちゃいけない。

切り替えなくちゃな。

この現実からモードを変えないと楽しめない。

ただでさえ初めての行動に緊張気味なのだからリラックスしよう。

これからどこいけばいいのかな。

迷子になりながらも上野不忍口にたどり着く。

つづく。

 

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