見たことのない景色 その3

見たことのない景色

 

時刻は午前3時。

表示にはEXITと書いてあった。

しかし僕にはインドという国への入り口だと思った。

そこを通ると大勢のインド人が待ち受けていた。

気分は芸能人だった。

知らないふりをして通り過ぎようと思ったが彼らはそうはさせなかった。

サインを求められているのならともかくそうではない。

「タクシー?」

みんながそう言ってくる。

こうなることは本で事前に分かっていた。

でもそれを経験したかった。

この日だけ宿の予約はしてあったので一人の男性にこの場所知ってる?

と日本語で言ってしまった。

彼はうなずいた。

嘘だな。

僕は信じないぞ。

彼は知らない。

そう断定した。

しかし彼は「知ってるよ」と日本語で返してきた。

「え?」

驚いてしまった。

何となくだが彼のタクシーに乗ることになった。

するとまわりにいたインド人達はすぐ離れていった。

取り合いにはならないのか。

こういうルールなのかな。

それはそれで素晴らしい。

しかし気になるのはお値段。

聞いてみると500ルピー。

高いよね?

「そんなもんだよ」

彼は言った。

正直言って相場を知らない。まあいっかと。

空港を出る前に両替もしておいたし。

ちなみに100ドル両替して5000ルピー。

その中の10分の1をタクシーに支払うのだ。

荷物を後部座席に乗せ僕も座る。

彼は手を出した。

先に金をくれ。

そんな感じだった。

そうとしか思えなかった。

日本は後払いだよな。

先に払ったらそのまま逃げられるかもしれないし。

「着いたらね」

僕は言った。

彼はうなずきそのまま出発した。

何やらカタコトの日本語で色々と話しかけてくる。

「何しにインドに来たの?」

「明日はデリーをまわるの?」

「俺だったら1日観光5000ルピーでどうだい?」

「全部観れるから安心しなよ」

そんなことを言っていた。

しかしその質問に回答するよりも走り抜けていくインドの街並みに興味がありそれどころではなかった。

無視していたわけではない。

ドゥング、ドゥング。

強制的に速度を落とさせる道路の山。

速い速度でいくとサスペンションがイカれそうだ。

無視するようなことがあれば車が壊れる。

こういう仕組みはある意味よく考えたものだ。

日本は誰かが見てなくても信号を守る。

そんなの当たり前だ。

しかしそれは日本のお話。

ここはインド。

こういうことまでやらないとダメなのか。

道路事情にまで興味がいく。

街は暗く明かりなどほぼないのだが道の端に見えるのは布切れ1枚で寝ている人たち。

焚火をしている人もいる。

確かに外は寒い。

ホームレスかな。

かわいそうだとは思わなかったがこれがインドの現実なのだと悟った。

全員ではない。

IT大国と呼ばれ頭が良く世界に優秀な人材を排出している情報はあるが格差はやはりある。

それは日本にも存在する。

しかし何というか本当のホームレスとはこういうことを言うのではないか。

僕があの場を歩いてたとしたら彼らは襲ってくるのだろうか。

お金を恵んでくれと手を差し出してくるのではないか。

そんなことばかり想像していた。

彼らはこの生活から抜け出せない。

それはカースト制度というものが存在するからだ。

貧民はずっと貧民。

貧民は上位者に恋をすることも許されない。

そんなことがバレたら殺されてしまうらしい。

本当にあった話だ。

ニュースにもなっていた。

インドの闇は深く我々には想像できない人々の壁がある。

仕方のないことだが僕がどうこうできるものでもない。

昔からあるインドの悪の文化なのだ。

どんなに否定しようが賛成しようが今の現状は変わらない。

僕は彼らを見ながら通り過ぎていくことしかできなかった。

そんな僕を見て運転手は「インドは初めてかい?」と言った。

なぜか僕は「イエス」と答えた。

運転手は「仕方ないよ」とだけ言った。

そして笑った。

少しずつ人が増えてきた。

デリー市内に入ったのだろう。

こんなに朝早いのに人で溢れている。

朝からみんなどこにいくのだろう。

まだ朝4時にもなっていない。

店もオープンしている。

24時間なのかな。

そんなことはないと思うが人々はこの年の瀬に何をしているのか。

みんな同じ方向へ向かって歩いている。

少し遠くに見えたが駅だと思う。

みんな田舎に帰るのかな。

多分そうだ。

こんなに朝早くから電車が出るのかな。

インドの電車は世界でも有名だ。

日本の満員電車みたいなものだが見た感じちょっと違う。

体験してみたいと思った。

本当に屋根の上に人が乗るのだろうか?

それってインドだっけ?

バングラディッシュだったような。

まあどっちでも良い。

あとで駅に行ってみよう。

もしかしたら乗れるかもしれない。

英語なのかヒンディー語なのかわからない文字の看板が多くなってきた。

そして急に人が少なくなったところでタクシーが止まった。

「ここだよ」

運転手が言った。

真っ暗ではないか。

しかもドアも開いていない。

運転手がドアをドンドンと叩きおそらくヒンディー語で叫んでいる。

やめてくれ。

まわりの人の迷惑になるだろう。

そんなのお構いなしに大きい声を出している。

ガチャッ。

ドアが開きメガネをかけた店主がこちらを見る。

僕は名前を言い「アイハブリザベーション」と言った。

彼は面倒臭そうに中に入るように言った。

タクシー運転手に500ルピーを渡すとき彼は一本指を立てた。

もうちょっとくれ。

そんな意味合いだったのかもしれない。

僕は疲れていたから手を大きくふり断った。

「明日は?」

そんな言葉にもカブせ気味に大きく手を振り断った。

不機嫌な顔で僕を睨みその場を立ち去るタクシー運転手。

そんなことも気にせずさっさと中に入る僕。

断るのも一苦労だ。

宿の店主は宿帳に住所や生年月日それとパスポートを見せるように言ってきた。

僕はパスポートを渡し宿帳に記入していると彼はコピー機に僕のパスポートをセットしスタートボタンを押した。

しかし動かなかった。

壊れていた。

宿の店主は明日返すから預かっておくよ。

そんなようなことを言っていた。

いやいや、返せよ。

僕は手を出した。

そのパスポートをどこかに売るつもりじゃないだろうな。

そうとしか思えなかった。

彼はパスポートを返してくれなかった。

僕は不安になった。

彼はパスポートを机の中にしまい僕を部屋に案内した。

一人部屋だ。

まあ悪くはない。

とにかく寒い。

エアコンはない。

朝4時だから寝られないな。

早めに部屋を出て駅の方へ行こう。

本を見てたらデリーからしばらくしたところにジャイプールという街があるらしい。

掲載されている写真を見る限りでは素晴らしい街だ。

行ってみよう。

少し荷物の確認を済ませ僕は兄に電話をした。

「インドに着いたよ」

そう僕が言った後に兄は

「そう、気をつけて」

それだけ。

まあいい。

うちの家族はこんなもんだ。

そして彼女に電話をする。

「いま京都だよ、帰ったらまた電話するよ」

そう言ったら彼女は

「あの一眼レフ持って行ったの?写真撮ったらあとで見せてね」

え?

僕は一眼レフを持ってきていた。

しかしここはインドだ。

彼女には今回の冬休みは家族で京都に行ってるから遊べないと行ってあった。

「一眼レフ忘れちゃったんだよね」

かなり焦った声で僕は言う。

「そうなんだ、帰って来たら連絡してね」

そう言って電話を切った。

この当時僕はWiFiとかラインの存在を知らず普通に国際電話をしていた。

高いのは承知だった。

でも電話もしっかりとつながるもんなんだな。

とりあえず安心した。

安心したらそのままうつらうつらとして目を閉じてしまった。

疲れていたのだろう。

長旅をしてきて寝てしまった。

そして起きたときは朝の6時だった。

1時間半くらい寝た。

爆睡しなくてよかった。

まだ緊張しているのだろう。

少ししか滞在していないがこのままだと本当に爆睡してしまうので外に出る準備をした。

つづく。

 

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