見たことのない景色 その5

見たことのない景色

 

「日本人ですか?」

ジャイプールへ行く車の途中に休憩があり車を降りたときに若い男女に日本語で声をかけられた。

「はい、そうです」

僕はそう答えた。

僕は海外に日本人を探しに来たわけではない。

でもなんか嬉しかった。

彼らは学生でこの冬休みを利用してインドに旅に来ているという。

昨日から何も食べていないらしく屋台の朝食を選んでいた。

全然美味しそうじゃないね。

しかし彼は食べていた。

僕も食べてみよう。

ちょっとした揚げ物が一皿出てきて10ルピー。

安い。

しかし僕の想像通り全然美味しくない。

彼は僕の分も食べた。

味が分からないのかな。

そう疑ってしまった。

僕はコーラを買い彼らと一緒に休憩をしていた。

彼らは旅慣れていた。

いろいろな国へ行きインドよりも過酷なところへ行ってきているらしい。

命の危険も感じたことがあったという。

すごいな。

彼らを少し尊敬していた。

言葉も僕よりは全然話せていた。

どう考えてもネイティブの英語ではないが堂々と話していた。

よく話を聞いているとこの二人はカップルではなくデリーでたまたま一緒の方向に行くことになっただけで一緒に行動をしているらしい。

「ジャイプールに何しに行くんですか?」

なんとなく。

僕のインドに来た経緯を伝え、ほぼノープランだということももちろん言った。

「え?意味わからない」

彼らは言った。

初めての海外がインドで一人旅。

そしてほぼノープラン。

見たいものはとりあえずタージマハルだけ。

そしてなぜか方向の違うジャイプール。

「なんとなくジャイプールに行ってその後アグラに行こうと思ってるんだ」

男の子は僕と同じでジャイプール経由でアグラに行くらしい。

「一緒にいきましょうよ」

彼はそう言ってくれた。

これも何かの縁だし何よりもそう言ってくれてありがたかった。

休憩も終わり車はまた走り出した。

少しこの状況に安心したのか寝てしまった。

多分彼らも寝ていたと思う。

起きたら外は晴れていてデリーでの霧が嘘のようだった。

砂まみれの道をひたすら進みこんなところで人が生活をしているのかと感じさせてくれる人たちを横目にたどり着いた街はジャイプール。

快晴のなか、駐車場に車が止まりみんな降りて行った。

「ここがジャイプールか」

すごい田舎だが山肌に沿って作られたお城が見える。

あそこにいきましょう。

アンベール城というお城だ。

建物の作りは中東のそれだがなんとなく中国の万里の長城にも似ている。

見上げれば相当な高さだ。

ここをこのバックパックを背負って行くのか。

僕らはみんなそんなことを考えていたのだと思う。

お城に入る手前でバックを調べられた。

全然問題はない。

すると男の子が係の人に「ここでバックを預かってもらえないか」

そう言った。

係の男は「いいよ」と言った。

一応写真を撮っておこう。

ここに僕らのバックパックがありましたよっていう証拠だ。

このくらいしないとなくなってから知らなかったと言ってシラをきるかもしれない。

信用してはいけない。

係の人には悪いがここはインドだ。

僕が思っている以上にいろいろとトラブルが起こりやすい。

念には念をいれる。

そういうわけでバックパックを預けることになったのだが女の子だけバックパックを預けるのを拒否した。

バックパックの中に大切なものが入っているらしい。

しかしこの大きいバックパックをこんなに小さい女の子がずっと背負っていくのは厳しいと思う。

僕が背負うことになった。

僕のバックパックより大きくそして重い。

これを背負ってずっと旅をしてきたのか。

小さい女の子なのにすごく大きく見えた。

彼女の名前は”サチ”さんだそうだ。

僕はサチさんと呼んだ。

まだ若いのに旅をして一人でここまできた。それだけですごいことだ。

しかしちょっと前までは女の子2人旅だったそうだ。

バラナシでもう1人の女の子があるインド人の青年に恋をして残りたいと言ったらしい。

それでもサチさんは進むことを選んだ。

男がそこで別れて別々の行動をするのはあると思うが女の子が旅先で別々の道を進むなんてあまり考えられなかった。

彼女は自分で選んだ道を進み今ここにいる。

喧嘩をしたわけではないらしい。

それを聞いて安心した。

みんなそれぞれの事情を抱えて今を生きている。

若いとか歳を取ってるとか男とか女とかそういうのではない。

みんな何かを抱えて生きている。

いろんな感情が生まれてくる。

知らない人と話をしてお互いのことを知っていく。

ここにきて良かった。

心からそう思った。

このお城は相当デカイ。

息があがる。

お城の頂上では猿が追いかけっこしている。

お城の道には牛が寝ている。

これがこの国の普通なのだ。

僕はそこに疑問を持ちながらもこの現実を受け入れるしかなかった。

受け入れるというよりはこれが新しい経験なのだろう。

これは夢ではない。

僕はいまここにいてしっかりと歩いている。

ちょっと重たいバックパックを背負ってはいるが力強く歩いている。

前を向いていま見える景色を心に焼きつけよう。

しかし人間は忘れる生き物だ。

僕はそれを知っている。

なぜか忘れてしまうのだ。

残酷なものだ。

知っているからこそカメラを持ってきた。

この時はきれいに撮ろうなんて思ってはいなかった。

僕が見た景色を僕のカメラで撮って残しておきたかった。

そして頂上についた。

最高の景色だ。

みんなで写真を撮ろう。

写りが良かったかはわからないがみんなで撮れたことが嬉しかった。

僕は本当の旅をしたことがなかった。

こういう経験はこれからないだろうな。

今だけだから一生懸命歩こう。

城の頂上の裏へ行くと見たくないものを見てしまった。

「駐車場あるじゃん」

オートリクシャーで来ればよかった。

3人とも言葉にはしなかったが少しはそう思っていたはずだ。

そして象もいた。

色彩豊かなペイントをされているぞ。

見ている人はいいが象はいい迷惑だ。

象を尻目に僕らは城を降りていった。

彼らは次に見たいものがあるらしい。

「この近くに水の宮殿って言うのがあるんで行きましょう」

降りている途中に男の子が言った。

彼と話しながら降りているときに彼の名前がカイト君と言うことを知った。

僕も名前を言った。

僕は彼をカイト君と呼んだ。

彼はアキラさんと呼んできた。

僕の方がかなり年上だ。

しかし彼の方が人生経験が上にも見えた。

たのもしかった。

デリーから気になっていたことがあった。

カイト君は爪を噛むクセがある。

悪いことではないのだが昔の僕が爪を噛むクセがあったから何か同じものを感じてしまった。

下に降りてバックパックを引き取り僕たちは水の宮殿へ向かった。

つづく。

 

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