見たことのない景色 その7

見たことのない景色

 

朝5時。

元旦だ。

昨日3人でささやかなハッピーニューイヤーを祝い眠りについた。

疲れていたからぐっすり寝れた。

しかし起きたのは朝5時。

なぜかというとこれからサチさんはバスターミナルへ向かいデリーへ行くのだ。

僕とカイト君も一緒に行った。

実を言うと僕らはこれからアグラへ行く。

みんなこの街とはこれでお別れだ。

オートリクシャーに乗りバスターミナルまで行く。

ジャイプールの朝は寒い。

インドに来て一番最初にイメージが変わったのは寒いということだ。

聞けば北インドでは毎年何100人もの人が凍死しているらしい。

最初に見た布切れ1枚で生活しているあの人たちがそうなる可能性があるのだろうか。

貧困と一括りにしているが僕自身が考える貧困とはまさにこのことだと思う。

日本で凍死をする人はいるのかもしれないがごく稀だ。

しかしこの時期に何100人もが寒さに耐えられず死んでゆく。

この現実はいまに始まったことではないのだろうが僕はいま知ったようなものだ。

しかも貧困層の彼らはずっと貧困層のままだ。

僕も自分では底辺だと思っていたがまだマシな方ではないか。

それよりも与えられた人生の中でチャンスがいくらでも手に入れられる状況で何もしていない僕と彼らを比べるのは申し訳ない。

彼らはチャンスすらないのだ。

僕は自分を恥じていた。

気持ちを入れ替えて生きて行こう。

そしてこの現実を忘れないようにしっかりと写真におさめておこう。

ファインダーから見るこの景色は異質だ。

もともと初めての異国なのにファインダーから覗くともっと不思議な感じになる。

自分がバーチャルの世界にいて全ては自分抜きで物事が進んでいるようだった。

戦場で今を伝えているカメラマンたちがあの状況でファインダーを覗ける意味がなんとなく分かった。

全ての人に当てはまるわけではないと思うがなんかちょっとした無敵感がある。

自分だけは大丈夫みたいな一種の魔法にかけられているようだ。

そんなことを思いながらシャッターを切っていた。

バスターミナルが見えてきた。

デリーと同じような感じでどのバスがどこに行くのかよく分からない。

サチさんはバスの前に立っている運転手らしき人にデリー行きのバスはどこか聞いていた。

運転手が近くを指差し僕らはそこへ向かった。

かなり古いバスだった。

本当にデリーまでたどり着けるのだろうかと心配させてくれるバスだった。

しかしサチさんは迷わず荷物をバスの荷物入れに放り込みまた僕らのもとへ来た。

「色々とありがとうございました」

サチさんは言った。

「気をつけて」

僕たちはサチさんにそう言い最後に握手をして手を振り別れた。

そしてサチさんは一度も振り向かずバスに乗り込んだ。

少し寂しかった。

サチさんにはサチさんの物語がある。

そしてサチさんのこれからの旅が無事に終えられるよう祈った。

僕たちには僕たちの物語がまだある。

一度だけデリー行きのバス方向を振り返ってから前を向いた。

アグラ行きのバスを探そう。

カイト君が近くの男に聞いた。

「今はここにないけどそのうちくるよ」

本当に係員なのかと言いたくなるくらい汚い服装の男が言った。

僕たちは昨日買ったお菓子の残りを少し食べながら待った。

このお菓子はおいしくない。

普通お菓子メーカーはどういうお菓子が売れるかを検討して試作を重ねて商品化するものだ。

しかしこのお菓子に限っていうとそんなことを全くイメージさせないくらいマズく、カイト君が横にいなかったら一瞬でゴミ箱行きだっただろう。

バスターミナルにはいろいろな露店があり食べるものには困らない。

コーラを買って待っていると「アグラ」と書いてあるバスが目の前に止まった。

これかな、多分そうだ。

ちょっと前にサチさんが乗るバスを心配していたがそれ以上に古いバスが来た。

お値段はどうなのだろう。

ちょっと気になっていた。

インドのローカルバスの値段がいくらなのだろうか。

僕がデリーからジャイプールまで来た金額は2000ルピーだ。

完全にぼったくられている。

運転手が降りてきて言った。

「500ルピー」

安っ。

この古いバスだからか分からないが500ルピーは安い。

僕たちは支払いを済ませ中に入った。

右側は普通のバスのシート。

左側はボックスみたいな横にもなれるしどう使ってもいいですよというシート。

僕たちは右側の普通のシートを選んだ。

それには訳があった。

後で分かるよ。

乗っている人は少なかったが時間になり運転手はエンジンをつけバスは走り出した。

長距離バスには運転手ともう1人サポートしている男性がいる。

走り出して街に出るとサポートの男が前方のドアを開けた。

そして大声で「アグラー、アグラー」と叫ぶ。

人々はこちらを見ていた。

そしてアグラに行きたい人は途中からどんどん乗ってくる。

そしてバスは止まらない。

走っているバスに人が走って速度を合わせ乗ってくるのだ。

最初にいる人よりも途中から乗ってくる人の方が多い。

実を言うとカイト君からこの情報は聞いていた。

途中から人が多く乗ってくるから普通の座席の方が間違いないと。

ボックス席の方は最初は人がいないからいいがそのうちギュウギュウになり大変だと。

カイト君ありがとう。

あんなにインド人と肩を寄せて何時間もいられないよ。

僕はそう思った。

バスは止まらず進む。

前が砂ボコリで見えないくらいなのにお構いなしに進む。

1回休憩時間はあったが僕たちは外に行かなかった。

おそらく席を取られるからだ。

もちろん指定席ではないから文句も言えない。

僕たちはこの席を守った。

それにしても窓から見える景色は砂と牛と野良犬ばっかりだった。

人々が生活しているが灰色のレンガを並べただけの家に住んでいてあまり見ていられなかった。

彼らにとってはあれが普通なのだ。

僕から見ればホームレスの一歩手前に見えた。

インド全体がこんなに砂だらけなのだろうか。

僕は疑問に思った。

テレビで見たインドはもっと緑におおわれた場所もあったし都会的なところもあると思う。

僕はインドの一部しか見ていないのだろう。

あとから分かったことだがジャイプールは近くにジャイサルメールという砂漠の町がありそういう地方なのだそうだ。

これから行くアグラはどうなっているのかは分からないが自分でしっかりとその景色を見て写真を撮る。

今回の旅は最初で最後かもしれないから後悔しないようにしよう。

朝早かったからか少し寝てしまって起きたら道路表示にアグラと書いてあった。

そろそろだな。

まわりを見るとみんなギュウギュウのなかで寝ていた。

そしてカイト君は爪を噛んでいた。

つづく。

 

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