異文化そして洗礼 その3

異文化そして洗礼

 

オートリクシャーは川岸の公園から街へ向かって走っている。

なかなかのパワーだがこの坂道を登るのはやはりキツいだろう。

少しずつ速度が落ちてきた。

「がんばれ」

僕はそう思っていた。

僕はがんばるという言葉があまり好きではない。

高校時代に部活で野球をしていた。

大会になると決まってみんなから

「今度の大会がんばってね」

そう言われる。

ありがとうと返事はするものの

何をがんばるのだろう。

何をがんばればいいのだろう。

そう思っていた。

その時僕が反抗期だったからなのだろうか。

いや、違うはずだ。

僕は今もその言葉が好きじゃない。

言われても困るし言ったとしても何をどうがんばればいいのって質問されたら困る。

何か伝えたいけど言葉に表せられない時にがんばれって言ってしまう。

これでは伝わらないのは自分でも分かっている。

都合のいいようにこの言葉を使っているのだ。

そう捉えてみると相手がこの言葉を使った時には僕に対して言葉に表せられない時なんだなと受け取ってしまう。

つまりはそこに意味などないのだ。

しかし相手の気持ちだけは伝わってくる。

そんな言葉なのかもしれない。

今回僕がオートリクシャーに対してがんばれと言ったのも意味はない。

あったとしたらちゃんと動けってことだ。

速度は遅いながらもこの坂道を登っている。

運転手を含めて3人乗車しているオートリクシャーのエンジンは悲鳴を上げている。

もう少しで登り切る。

最後の100メートルくらいは歩いた方が早くない?

そう思うくらい遅かった。

だが登り切った。

よくやったな。

僕は隣にいるカイト君にも聞こえないくらい小さい声で言った。

そこからオートリクシャーは息を吹き返し走り出した。

このままいけば時間通りにバスターミナルまで行けるかもしれない。

そう思っていたが先に見えてきたのは渋滞している車の群れだった。

ハマってしまった。

今回のは長そうだな。

素人の僕が見ても分かるくらいの渋滞だった。

景色が止まって見える。

いや、止まっているのだ。

動かない。

時間だけが過ぎていきだんだん空がオレンジ色になっていった。

僕たちは焦っていた。

渋滞に対してもそうだがこの街にいる犬に対してだった。

夕方になってくると犬が増えてきて僕たちを見ている気がした。

僕たちはタクシーに乗っているわけではないため犬が襲ってきたらたまったものではない。

インドの野良犬は危険だ。

何もないところでクルクル回っていたり急に穴を開けたりと不可解な行動をしている。

おそらく狂犬病だ。

その犬に噛まれたらゲームオーバーだ。

狂犬病の犬に噛まれて発症してしまったら100パーセント死亡する。

こんなに怖いことはない。

犬がこちらを見ている。

口を開け舌を出しハッハッハッハッという呼吸をしている。

渋滞中だから僕たちは何もできなかった。

犬と目を合わせないようにする。

それしかない。

少しずつオートリクシャーが進む。

そして犬もついてくる。

同じ距離を保ちながらついてくる。

この時間は本当に恐怖だった。

早く渋滞を抜けてくれ。

また犬が増えてきた。

みんながこっちを見ている気がする。

そんなわけないが僕にはそう見えていた。

もう少しで道が開けているのが分かった。

僕たちは空気のように気配を消し”無”に徹した。

やがてオートリクシャーが動き出した。

渋滞エリアを抜けた。

なぜあそこだけ渋滞なのだろうか。

そんな疑問と怒りが僕の感情を支配していた。

進んでいく中にも犬が多くいる。

ここで運転手が無理をして細い路地に入り近道をした。

この細い道でスピードを出している。

正直怖かった。

急に人が出てきたらどうするのだろう。

そんな心配をしていた矢先に事件が起こった。

小さい路地を曲がる時に人が邪魔だったのでよけながら進んだ。

そうしたら犬に当たってしまった。

この時は速度が全然出ていなかったため犬は大丈夫だった。

しかし犬はこちらに向かって吠えていた。

僕たちじゃないよ。

吠えるのだったら運転手に吠えてくれ。

しかし犬は僕たちに向かって吠えていた。

そして僕たちに近づき威嚇してきた。

本当に怖かった。

しかし運転手はすぐにオートリクシャーを走らせてそこから逃げた。

危険だ。

これだけ多くの人と動物が暮らしていればこういうこともあるだろう。

このインドでは常に危険と隣あわせなのだ。

インドの人は犬が怖くないのだろうか?

普通の時だったら僕は怖くないが今は恐怖の対象となってしまっている。

何よりもインドの人たちは狂犬病のことを知っているのだろうか。

知っていてこの生活をしているのだろうか。

この恐怖の中で生活するのはちょっと怖いな。

僕だったらここで生活できないかもしれない。

そんなことを考えていたらオートリクシャーが止まった。

バックパックを預けていたホテルに着いた。

僕たちは急いでフロントに行きバックパックを受け取った。

そして外に出たら空は薄暗くなっていた。

急がなくちゃ。

僕たちはまたオートリクシャーに乗りバスターミナルへと出発した。

また渋滞があるんだろうな。

なんなんだこの国は。

何でこんなにスムーズに行かないのだろう。

疑問しか浮かばない。

つづく。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました