異文化そして洗礼 その5

異文化そして洗礼

寒い。

今の僕の体温は何度なんだろう。

指先の感覚がなくなってきている。

高校野球の時にバッティング練習で芯を外して打った時と同じ感覚だ。

痛さも寒さも熱さも分からない。

ただジーンとしているだけ。

特に足の指先が怪しい。

靴の中で足の指を動かしているもののいっこうに血流が良くならない。

アグラからバスが出発してから2時間くらい経っただろうか。

あと2時間このままの状態で大丈夫だろうか。

すごく不安になってきた。

夕方を過ぎて景色は真っ暗になっていた。

田舎道をこのバスはひたすら走っている。

バスの運転手は大丈夫だろうか。

居眠りなどしていないだろうか。

正面衝突したりハンドルミスをして側道に横転したりしてもおそらく誰も気付いてくれないような田舎道だ。

ニュースになるのは多分明日だろう。

それまでは誰も助けに来ないだろうな。

もし助かったら歩いてデリーまで行かなくてはならないのでないだろうか。

嫌なイメージしか生まれて来ない。

なぜならもともと良いイメージがないのとこのバスの運転があまりにも荒いからだ。

子供の頃に僕は車に乗って遠出するのが好きではなかった。

頻繁に吐いてしまったからだ。

なぜかというと僕の父親の運転は荒かった。

あとは他の人の車の匂いが嫌いだった。

特に新車に匂いは吐き気がした。

乗った瞬間に吐いてしまうのではと思うほど嫌だった。

でもなぜか床が木で出来ていたバスは好きだった。

どこで線引きしているのかは分からないが好き嫌いが激しかった。

このバスの作りはその頃の古いバスの造りで嫌いではないが運転がダメ。

とにかく早く着いてほしい。

そう願っていた。

そんなに早く移動したいのなら飛行機にすればいいではないか。

今考えればそう思うし、そうするべきだと思う。

飛行機のチケットの取り方も奇跡的に取ったようなものだ。

クレジットカードも持ってはいたが使ったことなどなかった。

現金主義というか見えるものしか信じていない小さい人間だった。

もともとクレジットカードを使うのに抵抗があって引き落としの金額を無闇に確認したり多く引き落とされているのではないかと信じていなかった。

手数料がかかるのも抵抗がある一つの要因だった。

こんなポイントカードみたいなもので本当に機能するのだろうか。

ずっとそう思っていた。

そういえば昨日から自分の荷物チェックをしていなかった。

首から下げている小さいバッグの中を見てみる。

パスポート良し。

インドルピー良し。

日本円良し。

クレジットカード良し。

ん?

あれ?

クレジットカードが変だな。

銀色のカードだったはずなんだよな。

黄色と青いカードなんて持ってきてたっけな?

これはTSUTAYAのTポイントカードでした。

クレジットカードだと思って持ってきていたのにTSUTAYAのカード持ってきちゃった。

今いくらあるだろう。

もしお金がなくなったらクレジットカード使えばいいやっていう選択肢がなくなっちゃった。

これはまずい。

使わないようにしなくては。

オートリクシャーや各施設の入場料、食事代、そしてホテル代。

意外に使ってきた。

最初にタクシーやバスで高い値段払っていることも考えると非常にやばい。

バッグの中を見ればまだ10000ルピーと日本円の2万円が残っている。

しかし急に怖くなってきた。

ここに入っているお金を全部盗まれたりでもしたら大変だ。

ここは日本ではない。

インドだ。

警戒心が高くなってきた。

みんながこのお金を狙っているようにも思えてきた。

本当はそんなこともないのだがそう思えていた。

そして窓の外を見るとなんとなく街灯が出てきて明るく見えてきた。

おそらくデリーの市街に入ってきたのだろう。

少しずつ街っぽくなってきていてネオンも見えてきている。

人も増えてきた。

やっと着いたか。

まだ着いてはいないのだが少し安心してしまった。

気を緩めてはいけない。

ここは外国だ。

日本ではない。

しかし寒い。

指先が痺れているというよりは痛い。

僕は痛風ではない。

カイト君は大丈夫だろうか。

ずっと自分のことで頭がいっぱいだったので人のことを心配している余裕がなかった。

市街に入ったことで少し余裕が生まれたのだろう。

僕はカイト君の方を見た。

僕と同じく凍えていた。

若くて血行が良いこともあったのだろうかパーカーだけでも何とか耐えたみたいだ。

「早く着いてほしいです、この寒いの限界ですよ」

カイト君はそう言った。

「僕もだよ」

少し渋滞にハマってしまったが動いていないので外から寒い空気が入って来ないだけマシだった。

少しずつ動いていってバス停まできた。

暗くてよく分からないが多分初日に出発したのと同じバス停だと思う。

みんなが我先にと出ていったが僕らは少し待っていた。

なぜかというとこういう人混みの中でものがなくなったり落としたりして後でトラブルになることが多いからだ。

みんなが出ていって最後に僕らが出ていった。

みんなが出ていったはずなのに外に数人が僕たちを待っていた。

タクシーかオートリクシャーの呼び込みかな。

そんな程度に感じていた。

しかし外に出てみると違っていた。

数人が僕たち向かって両手を差し出していてお金くださいと言わんばかりの顔をしている。

言葉なんかいらない。

その顔でわかるよ。

僕にはあまり余裕がなかった。

なぜかというとクレジットカードを日本に忘れてきたからだ。

全員にはあげられない。

しかも小銭だけ。

僕もカイト君もそんなにはあげなかった。

彼らがあのお金でその日を生きていけるか分からないがそれしかあげられなかった。

そこにはあまりあげられなかった罪悪感や与えてやったんだぞという優越感もなく先を急いだ。

慣れっていうのは怖いものでもうカルチャーショックなどなくなっていた。

人間なんてそんなものだ。

ここから歩いて30分くらいでメインストリートがあったはずだ。

ホテルを探そう。

僕たちは夜のデリーを歩いた。

つづく。

 

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