現実へ戻される その7

現実へ戻される

工場で働いている仲間とは一緒にお酒を飲むことが多い。

仕事帰りにちょっとみんなで集まり、にぎやかに飲む。

週末は尚更だ。

僕がいつも持っている肩掛けバッグはちょっと大きい。

新しく買ったわけではないが一眼レフカメラが入るくらいの大きさだ。

僕はインドから帰ってきてからこのバッグにいつもカメラを入れていた。

いつでも撮れるように。

みんなとお酒を飲んでいる時にも入っていた。

「インドに行って何か変わった?」

そんなことを聞かれた。

「特別何も変わらないですよ」

「でも思ってたのとちょっと違ったんですよね、面白かったですよ」

僕はそう言った。

そしてカメラを出しその時に撮った写真を見てもらった。

誰もうまいとは言わなかった。

確かに最初はうまく撮ろうなんて思っていなかった。

自分が歩いた道を残したい。

ただそれだけでカメラを買ったのだが、いざ人に見てもらうときはうまいと言って欲しかったのだ。

残念。

みんなの中ではインドに行くなんて、ましてや一人で行くなんて選択肢になかったらしい。

僕もそう思っている。

最初にみんなが言っていた通り危ない、汚い、臭いというのはその通りだった。

しかし魅力的な場所だということが新しい発見だった。

今こうやって仕事終わりにみんなで集まってお酒を呑むのもいいと思う。

しかしこれはいつも同じで新しい何かを掴むことはできない。

出来たとしても同じルーティーンの中から見つけ出すのは難しい。

この難しいルーティーンから新しい何かを見つけ出したらそれはもう宝物に近いのかもしれない。

僕が今までみんなとお酒を飲んでいて何かを発見したことはないかもしれない。

みんなと話し、分かり合えるという意味ではより深い関係を築けるであろう。

会社はみんなの力で成り立っている。

僕だけの力では成り立たない。

みんなで力を合わせて利益を得る。

その利益の中から給料を分け合っていけるのだ。

うちの経営者だってそう思っているに違いない。

うちの社長は人をロボットのように扱わない。

尊敬できる人間だ。

その中で成長しあって生活をしている。

僕らは仕事を通じての仲間なのだ。

今までこんなふうに思ったことなどない。

インドに行って人と触れ合い、少しだけ優しさを感じてきた。

ある程度の距離を保ちつつだが良好な関係だったと思っている。

いつも現場で仕事をしているので人と接することが少ない。

新しい経験だったと思う。

しかしあの旅は終わりいつもの生活に戻った。

これでいいのだ。

あの旅は一生忘れないと思うがこれからはこの現実と向き合って生きていく。

仕事をして自分の趣味を楽しみ、たまには仲間とお酒を飲む。

それで幸せではないか。

少し温かい日が続くようになりそろそろ桜の季節だ。

僕のレンズからは冬の空は抜けるように青く見えた。

季節ごとに風景が違うのならその時その瞬間を大事に写真におさめよう。

全てがうまくいくなんて全然思っていない。

下手な僕なりの写真が撮れればいいのだ。

本当はうまく写真を撮りたい。

でも今の僕は出来ない。

ここから少しずつ上手くなろう。

つづく。

 

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