RICOH GR。
このカメラを知っていますでしょうか?
GRという名前のカメラが発表されて25年くらい経っているみたいです。
もちろん最初のGRはフィルム時代。
コンパクトカメラの中でも非常に画質が良く画角は28mmに固定されている。
そしてデジタルの時代になってセンサーサイズを変えながらもコンセプトを変えず定期的にモデルチェンジしている。
現在ではGR3まで出ていて僕も持っている。
あまりカメラのことを知らない人はリコーがカメラを作っているなんて知らなかったなんていう人もいるだろう。
何しろリコーという会社は複合コピー機やシステム開発で有名でありGRのCMもほぼ見ない。
宣伝広告費に力を入れる必要がないのかもしれない。
そこそこカメラを使ってきた人ならそのコンパクトな本体と画質に惚れて欲しがるし、カメラのことを知らない人はスペックを見て「他にもっと便利そうなカメラがあるからそっちを買う」という具合なのだ。
GRシリーズは高級コンパクトカメラの位置付けになっており発売当初は10万円を超えてくる。
「この価格でズーム出来ないなんて買う価値ないじゃん」というはずだ。
僕も最初はそう思っていた。
センサーサイズがAPS-Cになってから3世代を愛用してきたが僕は満足だった。
そして今も満足し続けている。
もちろんリコーGRシリーズがメイン機種ではないがサブ機としてこんなに心強いカメラはないし時期によってはGRシリーズのみでカメラライフを過ごす。
つまりはメイン機種にも劣らない画質、ポケットに入るサイズ感だから気軽にそして手軽に高画質のカメラが持ち運べるのだ。
画角が28mm固定だからといって不便なことなんてない。
この画質が28mm固定を許しているしみんな納得して10万円以上払っているのだ。
さて、前置きはほどほどにして僕がリコーGR2を愛用していた頃のお話です。
2017年だ。
僕は仕事の関係でフィリピンのマニラという場所に住んでいた。
仕事場所はもっと南にあるのだが駐在員として安全な地域に住んだ方が良いと言われ最初はマニラのマカティという街に住んでいた。
フィリピンのことを何も知らないまま住んでしまった僕は色々と調べてみた。
せっかく住んだからには写真を撮りたい。
そんな欲望が僕にはあった。
自分の住んでいる場所は比較的安全な地区で僕はもっとフィリピンの一般人が住んでいる場所を撮りたかった。
知り合った日本人やフィリピン人がほぼみんな口にしていたのは「トンドっていう地区があるけどあそこは行かない方がいいよ」だった。
ネットで見てみるとこの地区こそが僕が撮りたかった場所ではないか。
しかし、同じ国のフィリピン人までもがトンドには行かない方がいいっていうには相当な理由があるはずだ。
汚い、臭い、住んでいる人たちが危ない、帰ってこれないかも、とにかく危険。
そんな情報ばかりだった。
日本でいう大阪の西成みたいなところなのかな?
自国の人でも行かないっていう意味ではそういう感じだと思う。
でも自分の中では撮りたいという欲望の方が勝ってしまった。
色々な国の安全ではない場所を旅してきて少し感覚が麻痺していたのかもしれない。
僕は行こうと決めた。
仕事が休みの日曜日。
朝から僕はタクシーを止めて運転手にトンドまで行ってほしいと伝えるが嫌だと言われてスルーされる。
やはりフィリピン人も行きたくないのだろう。
しかし、3回スルーの後に止まったタクシーのおじさんは300ペソ払うなら行くよ言ってくれた。
300ペソとは日本円にして800円にも満たない金額である。
トンドに行けるのならお安いものだ。
僕は払うと言いタクシーに乗り込んだ。
いつもとは違う景色を眺めてポケットにはGR2を準備していた。
さすがにこれだけ良くない噂が流れているのだから一眼レフカメラなんて持っていけない。
僕の装備は2000ペソ、スマホ、部屋のカギ、そしてリコーGR2だ。
あまり目立たないように写真を撮る。
何があるか分からないから。
でも写真の写りには妥協したくなかった。
だからGR2を持っていった。
これしか選択肢がなかった。
トンドに着いた。
僕は運転手に300ペソ払ってタクシーを降りた。
この地区は確かに見た感じ危ない雰囲気が漂っている。
とりあえず歩いてみた。
僕の見た目が明らかに外国人であるためすでに注目されてしまっている。
こんなんじゃ写真なんか撮れないな。
そう思っていたがいつもと違う景色に僕の手は自然とGR2を目の前に構えていた。
フィリピン人がみんな見ている。
僕に注目している。
しかし僕の手はすでにシャッターボタンを押していた。
みんな注目していたが攻撃的な感じではなかった。
子供たちは笑顔になっているし働いている人も普通だ。
ここはみんなが言っていたトンドなのだろうか?
場所間違えたのかな?
トンド地区には大通りを挟んで内側と海側がある。
ここは内側だ。
ここのフィリピン人はフレンドリーでカメラを向けても怒ったりしない。
むしろポーズを決めてくれる。
そうか、海側の方が危ないんだな。
僕はそう思った。
そしてある程度歩いたところで海側に行くことにした。
大通りを渡り海側に歩く。
近くにはマニラ港があり大きなコンテナと船が見えていた。
海側の雰囲気は確かに違った。
最初にイメージしていたネガティブなトンド地区だった。
ここまで来たのだから行こう。
僕はトタンでできた住宅地に入っていった。
臭いな。
僕の最初の一言だった。
もちろん独り言だ。
内側とは違い僕に緊張感が走っていた。
奥に進むにつれてここに住むフィリピン人の暮らしが見え始めてきた。
僕がイメージしていた暮らしより低レベルの暮らしをしていた。
どうやって生計を立てているのだろう?
ちゃんとご飯は食べられているのだろうか?
そんな心配とは裏腹に子供たちは外に出て元気いっぱいに遊んでいた。
もうすでに僕の中で危ないという感覚は無くなっていた。
どことなく僕が小学生くらいまで住んでいた団地を思い出した。
同じ地区の子供が集まり毎日外で遊ぶ。
今の日本では滅多に見れない場面だ。
そして強い雨が降ってきた。
僕は人が住んでいるかどうかも分からない家の前に立ち止まり雨宿りをしていた。
そんな時にも子供たちは傘も刺さずに外で遊んでいた。
少し文化は違うが昭和の日本を見ているようだった。
同じフィリピンとは思えない。
でも危ないとか帰ってこれないとかそういう感じでもない。
いい意味で裏切られた気分だ。
たまたま僕は運が良く普通に写真が撮れたのかもしれない。
僕はGR2を構えてシャッターボタンを押していた。
撮影した直後に背面液晶で確認はしなかった。
なんとなくだがいい写真が撮れたと確信していたからだ。
雨がやんできた。
僕は海側を1周して大通りに戻ってきた。
危ないという情報が大きすぎて何か拍子抜けしていた。
どこが危なかったのだろう。
確かに危ない雰囲気はあったし今までの歴史の中で何人もの人たちがここで命を落としているのは間違いない。
情報と歴史と経験してきたことが違いすぎた。
僕の頭の中には疑問が残った。
そうこうしているうちに大通りを歩いている僕の前にはタクシーが止まった。
トンドに来るときに乗せてくれたタクシーの運転手だった。
心配して近くで待っててくれてたみたいだ。
僕は運転手にここの悪い噂や情報、でもそれは違うんじゃないかということを聞いてみた。
運転手も悪い噂については否定しなかったがそれは全員じゃないと言った。
トンドで住んでいる人たちは貧しく生活に困っていることは間違いないが普通に生きているフィリピン人だと言い悪いことをしているのは外部から来る人間が多いとまで言ってくれた。
ただ、日が暮れたら絶対に来ない方がいいと忠告してきた。
今日は本当に良い経験をした。
少し落ち着いたらまた来ようと思った。
やはり他人の噂や情報だけで判断するのではなく経験してみるのが一番だな。
そこには多少のリスクは承知だ。
少しフィリピンが好きになった気がした。
マカティに到着してタクシーの運転手が言った。
運転手「400ペソ払え」
僕「え?」
僕「行きは300ペソだったよね?」
運転手「待っててやったろ?」
僕「待っててくれと頼んではいない」
運転手「とにかく払え」
僕「・・・」
少しフィリピンが嫌いになった。
※このページの写真はすべてAKIRAが撮影しました。
※このページの写真はすべてリコーGRを使用して撮影しました。
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