2014年夏。
僕は一眼レフカメラを買った。
今まで持っていたNikon D5100を手放して他のカメラを買おうと思っていた。
しかし当時の僕にはカメラの知識が全くなかったのだ。
APS-Cとかフルサイズとかよく分からず一眼レフだったら写りがいいんだ、高ければ綺麗な写真が撮れるんだと信じていた。
僕にはフラッグシップ機を買う経済的余裕は無くビックカメラのカメラコーナーをウロウロしていた。
その時は買わなかったが自分が買える範囲の候補をいくつか見ておいてカタログをもらってきた。
ある程度作例を確認していたら一番最後にもらったカタログにペンタックスK-3というカメラのカタログが出てきた。
よく見てみると角ばっていて強そうな印象だ。
何よりも他社と同じ価格帯の製品よりもスペックが高くコスパが良さそうだった。
「これにしよう」
僕は買うことを決めた。
確かボディのみで14万円くらいだった。
レンズはシグマの18ー50mm f2.8だったかな?
とりあえずこれだけあれば綺麗な写真が撮れる。
そう信じていた。
そしてそれは間違いではなかった。
しばらくして僕は写真投稿サイトや写真雑誌を見るようになりプロカメラマンからの視点やカメラやレンズに対してのマニアックな記事を読むようになる。
そこで思ったのが「みんなズームレンズよりも単焦点レンズの話ばかりするんだな」
なんでだろう?
ズームの方が楽だし僕が持っているF値が2.8くらいだったら不便なことはないんじゃないかな?
疑問に思っていた。
写真投稿サイトにも投稿された作例があったが僕が良いなって思った写真はだいたい単焦点レンズで撮られていた。
「1個は持っていた方がいいのかな?」
新品は買えないけど中古の純正でいいやつがあったら買おうと思っていた。
色々と調べるうちにペンタックスの純正レンズにはシリーズ別に分かれていて好みにあったレンズが選べると分かった。
その頃の僕はとにかく最高画質を求めていてボケ具合のことはよく理解していなかったがキレッキレの写真が撮りたかった。
(何を撮りたかったは決まっていなかった。)
そして色々と調べた結果買おうと決めたのがペンタックスDA★55mmf1.4SDMである。
値段は確か5万円弱だったと思う。
単焦点レンズにこんな高いお金払うんだ。
当時の僕はこんなことばっかり思っていた。
街並みや山に行った時に撮った景色は今までとは違う僕が求めていたキレッキレの写真が撮れた。
あぁ、本当にすごいんだな。
僕は実感した。
しかし、僕が使っていたK-3のセンサーはAPS-Cだ。
画角は82.5mmとなりスナップや風景を撮るには少し不便に感じていた。
ただ撮れる写真はキレているからあまり文句はなかった。
望遠域に入るこのレンズが輝ける撮影スタイルは何だろう?
また調べてみたところポートレートに適しているということだった。
とはいえ僕にはポートレートを撮らせてくれるような人なんていない。
家族に頼むのなんて無理だし撮らせてくれるのなんて実家で飼っている猫くらいなものだ。
その猫もカメラを向けるとそっぽを向いて良いモデルさんとは言えなかった。
やっぱり女性が撮りたかった。
雑誌の巻頭ページに載っているような綺麗な女性を撮ってみたかった。
僕は思い出した。
そういえば撮り鉄とかレースクィーンとかを撮っている人達のコミュニティがあったはずだ。
あの中に入ろうとは思わないが調べてみれば何か手がかりがあるんじゃないのか?
僕はまたまた調べた。
撮影会というものがあるじゃないか。
しかもいっぱい。
僕はモデルさんを食い入るように見て撮りたい女性を探した。
いた。
ちょうどスケジュールも空いているし僕はすぐにモデルさんをお願いした。
お願いしたと言ってもサイトからクリック1つで出来るのだ。
撮影当日僕は電車で都内へ行き指定されたスタジオへ向かった。
群馬という田舎者の僕には東京は遠かった。
約3時間の旅を終え僕は時間通りにスタジオに着いた。
中へ入り係の人に名前を伝え先にお金を支払う。
この撮影会は1対1で行われる。
待機場所には僕のほかに10人近くのカメラマンがカメラとレンズの用意をしていた。
みんな高そうな機材を用意していてプロなのかもしれないというような人もいた。
僕はカメラとレンズしか持っていってないしフラッシュも使わない。
使わないというか持てないし持ってても使い方が分からないと思う。
なんか緊張してきた。
本当に大丈夫だろうか?
ペンタックスを持っているのは僕だけだぞ?
あれ?使用禁止じゃないよね?
そんなことを思い規約などを読み返したりもした。
(もちろんペンタックスもOKだし他のカメラもほぼOK)
やっぱり帰ろうかな?
そのくらい精神状態は追い込まれ、とてもじゃないが撮影ができるような状態では無くなっていった。
そして前の組が終わり休憩時間に入って撮影を終えたカメラマンたちは帰っていった。
なかにはカメラマン同士が知り合いで談笑したりもしていた。
そういう人はだいたい高そうなカメラを持っていた。
そうこうしているうちに時間が来てモデルさんが楽屋から出て来た。
僕がお願いしたモデルさんが僕のところに来て挨拶してくれた。
僕も挨拶して撮影が始まった。
手が異常に震えていた。
このまま撮影したらとんでもないブレ写真の連発だ。
モデルさんを前にカメラの確認をするフリをして何とか緊張をほぐそうとした。
そして最初の1枚目はやはりブレていた。
モデルさんも気を使ってくれて話しかけてくれたりした。
手は震えたままだった。
しかし撮った写真を確認すると意外にブレていなかった。
これが手振れ補正の威力か。
そう感じた僕はそこから多少の手振れは大丈夫だなと思いシャッターを押していった。
スタジオの写真を撮る環境が非常に良く僕のDA★55mmf1.4SDMレンズも次第に威力を発揮していった。
「なんか全然違う」
「いい意味で」
僕が今まで撮ってきた写真とは違い何か華やかな雰囲気を感じた。
背景のボケ具合がモデルさんをより一層キレイにしている。
数字などでは答えられないが感覚という曖昧なもので僕の脳を刺激した。
目にピントが合った時はモデルさんがコンタクトレンズをしているのが分かるくらい解像している写真が撮れて楽しくなっていった。
レンズを変えるだけでこんなに違うものなのか。
というよりはカメラ本体よりもレンズが大事なのではないか?
カメラマンはみんな分かっていた事をその時に僕は理解した。
賢者は歴史から学び愚者は経験から学ぶ。
僕は間違いなく愚者だ。
しかし、愚者にすらなれない者もいる。
僕は愚者になれたのだ。
この感動を経験できたことが本当に嬉しかった。
「ポーズはお任せします」
モデルさんのポーズのバリエーションにも限界があるはずなのにそんなことしか言えない僕に対して嫌な顔ひとつせず対応して笑顔を作ってくれるモデルさんは本当に素晴らしかった。
最初に無言で撮影している時よりある程度会話をしているときの方が表情が柔らかい気がする。
1枚1枚撮るたびにこのカメラとレンズ、そしてファインダーに映るモデルさんに僕が吸い込まれるかのような感覚。
写真を撮ってきてこんな感情になったことは初めてだった。
色々な国を旅してきたが毎回違う景色や人物が入れかわり立ちかわり変化していく撮影と違い1人の女の子と向き合いコミュニケーションを取りその中で最高の場面を切り取る。
こういう撮影もあるんだな。
そしていま僕はもっとこういう撮影がしたいと思いながらシャッターを切っている。
楽しい時間は一瞬の出来事のように過ぎてしまいあっという間に1時間が過ぎてしまった。
500枚くらいは撮っただろうか。
普通だったらこんなに撮らない。
それほど楽しかったのだ。
最後にモデルさんと一緒に写真を撮ってもらい良い記念にもなった。
本当に楽しい時間をありがとう。
定期的に来ようと思った。
スタジオから駅に向かう途中コンビニに寄り、冷たいミルクティーを買ってまた駅へと歩いた。
いつも飲んでいるミルクティーと同じもののはずなのにおいしく感じた。
そして電車の中ではさっき撮った写真をニヤニヤしながら確認しているおじさんの姿があったはずだ。
通報されなくてよかった。
※このページに載せているすべての写真はAKIRAが撮影しました。
※このページに載せているすべての写真はペンタックスK-3とペンタックスDA★55mmf1.4SDMを使用しました。
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